未来の車








未来の車はヨーロッパデザインが主流になり、角が取れて丸みを帯びたスタイルが席巻してゆくのでしょう。

各モーターショーに見る流線型の大型化ではなく、スマート化の一途をたどる動向を見れば、

カーデザインの行き先は見えているような気がする


でもケンにそんなことを言ってもダメ。

あの人は誰もが考えそうもないなこと、いつも飛び越えた考え方をする人だから。


ある時は、レクサスLSのボデーは、仏師・運慶の不動明王像だと言った。

ある時は、未来にはペット化される室内車が、世間の話題になるはずと言った。


未来の車1


わたしは到底彼の脳漿についてゆけない。

何て言うのでしょう、それでも彼との仕事上の付き合いが長いから、ケンの考えそうなことは分かる気がした。


彼はきっとこう言うよ、欧米スタイルが通用するのも初めだけだって。

日本車の性能が欧米の自動車メーカーのそれを凌駕してしまったように、

アジアの奥優しい微笑みと内面から溢れ出る気迫が、いずれは未来の車でも世界の主流を掴む。

そんなことを言いそうだって思った。

何もかもを呑み込んで和様化させた日本伝統のスタイルは最高だって、いつも言っているケンだから。


「ねぇ、未来の車のデザインってどうなってゆくのかなー?」

ある時、高速の合流直前の隙を狙って、ケンにこのことをぶつけてみた。

すると彼は間髪入れない即答で、うわ言の様にこうつぶやきながら加速した。


深海魚だよ、深海魚。カーボデーデザインの行き先を僕は知っている。

角をなくして、流線型をつきつめたら、それは魚になるんだよ。

進化すればするほど、近くなってゆくのは深海魚の形さ」

やっぱり凄い人、こんな風変わりな質問に即答なんて、まるでクレイジー、まるでアーティスト。


未来の車2


「えー?もっと洗練されたスタイルに進むものだとわたしは思っているけど?」

「うん、5年10年のスパンで見ていけばそうなる。

でもね、その先に待っているのは人類のアイディアの行き止まりなんだよ。

人の想像力なんて知れていて、無数の生命を創り上げた神のアイディアの足元に及ばないのは分かるだろう?」

「それはね、神が創る有機生物たちの素晴らしさには人が作る無機物は勝てないわよ」


「だからさ、僕が思うのは、人はもう自分たちの貧しいアイディアを進めるのではなく、

自然界のアイディアの良い所取りをすればいいと思うんだ。

水の抵抗を抑えるサメの流線形、いいや、どうせならもっと飛躍してしまおう。

光の届かない深海で彷徨う深海魚たちの不思議な怪しい魅力。

狂喜のセクシー、あれを未来の車に取り入れた時、

車はもう物質ではなく、有機動物に近い能力を備えた未来の乗り物になっていると僕は信じる」


正味、話の半分は分からない。

でもきっとケンの頭の中では理路整然と整理されているのでしょう。

深海魚が未来の車だってケンは言った。

わたしは決して忘れない、10年、50年先になった時にケンが言った未来の車のことを思い出して、

笑うか黙るか、どっちにしても楽しみには違いないのだから。